女衒 ★★★☆☆

日露戦争の時代、香港で日本の対露スパイとなり、その後成り行きで東南アジアの女衒になった男の話(一応実話ベース)。

女衒という言葉は聞きなじみが無いが(NUMBER GIRLの「ZEGEN VS UNDERCOVER」という曲タイトルでしか見た記憶がない)、女郎斡旋業を意味するところから、売春防止法施行後の現代では使う機会が無いからだろう。今だとAV女優の所属事務所が類似する商売かもしれない。大抵のAV事務所のサイトには、「高収入」「アリバイ完備」「高級マンション寮」「安心」「楽しく」など、わかりやすい美辞麗句が並んでいる。AVを鑑賞する、主に男性はそれによって興奮を得られ性欲を満たし、出演するAV女優はそれら美辞麗句を享受できる。使い古された言葉で言うとWIN-WINの関係、理想的な職業ではないか・・・・。

ところが現実は異なる。美辞麗句で表面を覆うということは、そうせざるを得ない理由がある証でもある。その理由とはAVを見ると一発でわかるだろう。最近だと容姿のレベルもかなり高くなり、人気の単体女優はタレントやアイドルよりかわいい事も多い。そんな女性が不特定多数の人にセックスはもちろんフェラ・クンニ・オナニー・ごっくん・顔射・大量ぶっかけ・3P・二穴などを鑑賞される。日本の現行法ではなぜか肛門の映像使用はOK(たぶん医学的側面?)なのでボカシが入らず、綺麗な女性の菊座(この言葉結構良い)が映像として収められる。美辞麗句を享受する代わりに、これらの犠牲を払う、この点にどれくらいのAV女優が、好意的に同意しているのだろうか。

もちろんだからといってAV女優を卑下しているわけではない。俺自身AVを見た事がないかというと、山ほど見てるし、その点AV女優にお世話になっているわけで、彼女達がやっていることを否定できる分際ではない。結構、本音のところでたまげた女性達だなと思っている。ただ、例えば自分の家族や知り合いが「AV女優をやっている」となった場合、理屈では理解できても、気持ちの面で受け入れられるかとなると・・・・、今リアルに想像してみたが、完全に無理である。理屈と感情のギャップを埋めるのが、美辞麗句なわけだ。

本作でもその点を、女衒や女郎の存在意義・大義名分として用いている。明治時代、日本国民は総じて天皇陛下の御子であり、その天皇が統べる日本国発展のため、徒手空拳の女性達が自らの体を売って、家族に送金し、家族がその金で消費したり働いて税金を納める。さらに女郎街が賑わうと、それによって街も発展し日本の産業にも貢献できる。女郎は故郷の田舎で一生貧乏暮らしすることもなく、年季明け(借金完済)したら体一つで稼げる。理屈だけで見れば確かに筋は通っている。

だがこのような大言壮語は、実際に体を売る女郎達には全く響かない。感情の壁は乗り越えられない。このことを女衒達は「よ~く”言い含める”」と表現している。体を売るという事実は変えられないわけだから、せめて感情面だけでも、天皇陛下を引用し意義有ることのように見せかけて、説得しているのだ。

体は売っても心は売らない。これができたら理想的だ。女を買う男も、心まで求める場合はそうそうない。AVにしろ女郎にしろ、目当ては体や行為である。体と心の完全な分離を女性は割り切ってできるのだろうか。あるいはいわゆる”慣れ”の問題なのか。この点は男性には想像し難い。大勢の撮影クルーがいて、カメラのレンズが向けられる中、乳首の部分を丸く切り取られた競泳水着の股間をずらして(ちゃんとSPEEDO社のやつ。なぜか水泳帽は被っている)アンアンアンアン言っている異様な空間において、腰を曲げて大根を収穫しているばあちゃんの顔とか、さんま御殿を楽しげに見ているお母さんの顔とかよぎらないんだろうか。想像しただけでも身震いしてしまった。

この点、映画と離れていくつかの議論を見てみた。でも答えは出なかった。「AV女優のやってることは否定しない、でもそれが家族だと無理」この二面性はどう決着付けるべきか。散見された意見として「AV女優もその職業に誇りをもって立派にやってる。需要があるからやってる。」というのがあるが、そんな客観的な話じゃねえんだよな。そういう意見を持っている連中には「じゃあテメエのかあちゃんがAVやってたら、リアルに想像してお前どう思うよ?」と聞いてみたい。

で現時点の結論としては、自分の感情として解決はできていない。一方事実としてAVや性風俗は供給されている。この時俺自身の判断として、そういう類のものは利用しない、という選択肢がある。ただし性欲は人間すべからく持ち合わせており、たとえ俺一人が利用停止したところで、根本的な解決にはならない。供給の性欲弾力性はメチャクチャ小さいのだ。よって「感情の問題は黙殺!!!!!、大日本帝国統帥部ばりに黙殺!!!!!!、そして事実は供給の範囲内で活用させていただく」という、超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超独善的な結論に達した。こんなのこじつけであることは百も承知。AV女優さんごめん。そしてありがとう。

ストーリーは典型的なサクセスストーリーで、起承転結がそのまま栄枯盛衰になっているのでわかりやすく素直に楽しめた。残念なのがオチだ。「オチをどうするか困った」のがわかるほど酷いオチだった。

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