天国と地獄 ★★★★★

ナイスシューズ社の重役、権藤氏は他の重役による会社乗っ取りの呼びかけを拒否し、密かに進めていた単独の会社支配に動いていた。その矢先、子供を誘拐したという電話が。身代金を払うと会社支配のための株式が手に入れられない。子供を見捨て社長になるか、子供を助けて文無しになるか、運命の決断・・・!
非常に見やすい!これに尽きる。サスペンス本編の緊迫感と、刑事達の高笑い、この安堵感はなんだろうか。それぐらいこの映画のストーリーには惹きつけるものがある。
大まかに二つにわけると、前半は権藤の葛藤と刑事の動き、そして列車のシーンでそれが高まり、鉄橋のところは「うぉぉぉぉ」って思う。すごく興奮する。「真一ぃぃぃ」って自分も叫んだし。
そして後半は刑事中心の追跡で、これは今となっては定番の動きだが当時はどうだったのだろうか、おそらく主役でない刑事達だけを写して、犯人にだんだん迫っていく描き方というのは斬新だったのではないかと思う。
そしてまぁ相変わらず人物の際だったキャラ付けはうまい。お互いのキャラがお互いに相乗効果でいい具合に働きかけ、それぞれ印象深い人物になっている。
七人の侍は強烈に長い分、人物や「侍」「百姓」といった総体の描き方は丹念だけども、ストーリー映画として本作の方が魅力的である。富民VS貧民の構図なんてのはそんなにビンビンに感じなかったし。七人の侍は、侍VS侍よりも侍VS百姓という構図にやられた感じだが、本作ではそのストーリーの流れにやられた。ズキィーン。

ピストルオペラ ★★★★★

ストーリーはあって無いようなもの。どうでもいい、ってわけではないけど、特にこの監督の場合ストーリーはメインじゃないと思う。
まず観終わった後の後味がものすごおおおおぅく悪い。「おもしろくねぇ映画を観てしまったなぁ」では絶対無いのだが、なんというか「狐につままれた」ってやつか。ラストは大笑いしたし。
昔のモノクロの映画(すべてが狂っているなど)はそうでもないんだが、カラーになって映像に色彩が持ち込めるようになってからは、この鈴木清順という監督の映画は実に特殊な映画が多いようで、実際前作から10年ぶりという本作も要するに”意味不明”なんである。
問題は観る側がそのアドリブではない、最初から決められた「意味不明なセリフ」とか「意味不明な映像」を受け入れられるかどうかだ。映像はまだしも、突然「ちゅうちゅうたこかいな~」とか言われてしまっても、「はぁ?」「うわくっせぇ」の人は多いと思う。
自分の場合清順映画は音楽の聴き方と同じ感じになる。自分は音楽を聴く場合、その歌詞すらも音の一部として聴くように自然となっている。例えば「愛してる」という歌詞があればその意味などはあまり気にせず、その曲全体のつながりとそのときの「愛してる」の音の響き具合、こっちを重視している。つまり、セリフという音声もすべて映像の内に取り込み全体を一つの映像映画として観る感じ。だからこういう意味不明な映画では、セリフにだけ意味があるよりは、全体が意味不明という方がツキヌケているのでよろしい。
そうなると、意味不明なセリフさえこの映像の一部なのであると感じられるから意外に楽しんで観れる。そう、いかに楽しんでみようとするかが大事だと思うんだなぁ。いきなり「わけわからんぞてめぇ」じゃなくて。
でまあ、映像はすばらしいです。これは実際観んとわからないと思うが、キメの映像がきっちり様式キマってるのが格好いい。確かに、こりゃやりすぎじゃろうがと思う部分(特に後半の妖怪博覧会での決闘)はあるけども、ここぞの清順節はやっぱかっちょいい。
で音楽はEGO-WRAPPINのブルースラッパ、要するにラッパ万歳です。この映画のヘンテコな和風によくあっている。ただあの幼女のテーマ曲は納得できないがねぇ。
幼女といえば、この映画には児童ポルノが登場するのです。小学校高学年くらいの子供(パンフレットによると1990年生まれ。って平成生まれじゃねぇか)の少し膨らんだ乳やおしりが数回バーンと、バーンと、出るのです。瞬間はジーッと見てしまったが、あれはいいんだろうか?抵触しないんだろうか?まぁ映倫通ったってことはOKなんだろうが、ドキドキした。全体的な映像がエロいのだけど直接的なエロはそこだけ。それだけにインパクトでかいよ。幼女だし。
主役二人もがんばってた。江角の元々からのオトコオンナのような雰囲気と野良猫のキャラクター、また山口小夜子の特殊な雰囲気も良いと思う。というか映画の映像感覚がOKならだいたい、役者がダメだったってことにはならんと思う。
総じて、自分は楽しめましたがこれは人にお勧めできません。後味悪いし、好き嫌いは激しく分かれると思う。
何かで見た監督のインタビューで、「この映画で伝えたかったことは何ですか?」の質問に監督「そんなもの、ありませんよ」←こういう82歳っていいねと思えたら観よう。