王選手コーチ日誌 1962-1969 一本足打法誕生の極意

 2013年ももう2月になった。今更今年の抱負を書くのも変だが、今年はこのブログを有効活用しようと思う。bitchが書かなくなって久しいけれども、復活までのんびりと続けたいので。
 そこで、しばらくは読書感想文でも書こうと思う。慶應通信を卒業してからも本は継続して買って読んでおり、引っ越して巨大になった本棚もそろそろ埋まるくらい本が増えたのだが、1度読んで終わり(もしくはまだ全部読んでいない)本も多いため、再読のきっかけとするためにブログを使おうかと思っている。目標は週1回エントリすること。

 というわけで、第1回目は表題の通り、王選手を育てた荒川コーチの本だ。実は昨日ブックオフで買って一気に読んだものなので、全然「本棚の本の棚卸し」にはなっていないのだが、それはそれ。
 本書は王選手を指導していた荒川コーチが、当時つけていた日誌をほぼそのまま公開したものだ。高卒ルーキーとしてはまあまあだが周囲の期待には応え切れていなかった王選手が、荒川コーチの指導によって急速に才能を開花させてゆく様が臨場感を持って書かれている。あの一本足打法誕生の日もしっかりと記録されている。
 近年、「王は真面目、長嶋は天真爛漫」という当時マスコミがつけたイメージが実は逆だったということが徐々に明らかになっているが、この日誌にも、ちょっとよくなった王が練習をサボり気味になることで不調になってしまうという繰り返しが何度も登場する。
 ただ、それ以上に印象深いのは、まるで息子の成長を見る父親のような荒川の様子だろう。調子がよいと天才だと喜び、不調になると心構えがなっていないと憤る様は、どっしりと構えた師匠よりは父親に近い。日誌の最後、そろそろ王選手が独り立ちする頃の記載を読むと、少し寂しそうですらある。しかし、王選手を教え始めたときの荒川コーチはまだ32歳(1930年生まれ)。現役でもおかしくない年齢なのだから、揺れ動く心は致し方ないのだろう。それでも今の自分と同年代の人間がここまで人をコーチできるというのは、我が身を振り返ってみてもすごいとしかいいようがない。
 日誌には何度も「気」という言葉が繰り返し出てくる。この「気」についての解説がほとんどないため、意味をわからずに読んでしまうと、単に精神論をぶった痛い人にしか見えない。この意味を知るために、「打撃の神髄 榎本喜八伝」を併せて読むことをおすすめしたい。

 最後に、最近話題の「体罰」についても触れられていることが興味深い。王が門限破りの常習犯だった堀内に対して鉄拳制裁をしたことについて、荒川は日誌の中で厳しく批判している。あとがきにも体罰はもちろん、指導する際に醜い言葉(罵声)を使うことを強く戒めるよう、世の指導者に求めていることに注目したい。

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