野獣死すべし ★★★★★

ある晩刑事が何者かに殺され拳銃を奪われる。そして隠れ賭博場での殺し。さらに銀行強盗騒ぎ。犯人の目星をつけた刑事が追跡するが・・・。
松田優作演ずる主人公は所謂キレ役で、見事にはまっている。その緩急というかキレ具合が異常だ。一般の人間はもちろん自分を愛する者をも躊躇なく殺し、相棒を殺し、果てに殺されるという、「殺し」と言うか「死」に対して躊躇がないとこが凄く印象に残った。
前半でも所々でわかるのだが、後半部で明らかとなる優作演ずる殺人鬼のトラウマ的殺しに対する欲求、その欲求が殺しの「快感」ではなく、殺しそのものを求めていること、またそれを演ずる優作の姿は鬼気としたものがある。
この映画で象徴的なクラシックの音楽、それには死のイメージがある。協奏曲なんていろんな楽器が組み合わさってなんだか死者を奉って迎え入れるようなイメージなのである。ロックの衝動とは対照的に、だから好きなんだが、まさしくこの映画にふさわしい音楽なんじゃないか。
初めて殺人を犯した相棒が恐怖しているシーンで、「君は人を殺したから恐怖を感じているんじゃない。人を殺すことに快感を覚え始めている自分に対して、とまどいを覚えているのだ。」「いいんだ。それでいいんだ。いいか、君は今確実に美しい。それは神さえも、否定できない事だ。」優作が語りかける。相棒役の鹿賀丈史はアフロヘアなのだが、それはもう確実に美しい。本当に美しい。このシーンは本当に衝撃を受ける。
レストランでウェイターの鹿賀が、優作に「なに見てんだコラ」とふっかけたあとに、優作得意の「死んだ目」で睨まれたじろぐシーンなど、何気ないが印象に残る。見せ場はもちろん何気ないシーンでさえも圧倒的な存在感。凄い。
この演技は、演技を超越して松田優作の人格のひとつに既に存在するものだからこんなにはまっているのかもしれない。

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