密かに好意を抱いている隣人の女性が衝動的に行ってしまった殺人を偶然に知り、彼女のために偽装工作をする天才数学者・石神の話。
これまで見たミステリー(数は少ない)の中でもロジックの内容はかなり良くできている。こういう系のサスペンスはロジック構築が全てとも言えるほど重要な要素であり、その点テレビの2時間ドラマレベルまでは御都合や飛躍がてんこ盛りで見てられないのだが、流石映画と思えるほどに隙がなかった。今頭で整理しながら書いているが、恐らく石神の作った筋書きに破綻は無いように思われる。・・・たぶん。
アリバイ工作と見せかけての死体すり替えを思いついてからの、ホームレス殺人を決行したのが大本の衝動的殺人の翌日ということは、石神自身が身代わりとして自首するというのも(警察の追求の程度によりけりだろうが)筋書きの範囲内だろうし、だとすると自分が警察に疑われて(学校に聞き込みに来たあたりか)から以降のあからさまなストーカー行為も説明が付くし、湯川が真相を話に来る直前まで、彼女達の身を自分の力によって守れたことと警察をまんまと欺けたということで罪の重大さなど屁でもなく、拘置所で石神は至福の時を過ごしていたことだろう。
犯罪の解決をy・容疑者Xの書いた筋書きをx・警察の捜査をd・とすると、ストーリーはy = dxで表される。この場合の変数はxのみであり、石神のコントロール下にある。xは 0 < x <=1 で、解yに対する定数dに影響を及ぼす。x = 1になった時点で y = d、つまり警察の捜査が犯罪を解決したことになる。石神が書いた筋書きは x = 1に至るまでを描いたものであり、彼の想定では他の変数は無いはずだった。
しかし実際は、天才物理学者湯川の介入(Yはわかりにくいので便宜上aとする)、女の気持ち(w)が想定外の変数として入ることで、式が y = (d + a)x + w となってしまった。変数aは事件の当事者でない以上、独自の変数として成立するほど影響力はなく、これも結局xに依存する。石神にとって一番の想定外はやはりw、最後に自首してきた女の気持ちだろう。それまで一貫してクールを決め込んだ石神が見せた最後の剥き出しの感情は、題字にもある「献身」が報われた感情というよりも、自分が作り上げた傑作の数式が、論理的でない予想外の要因で破綻してしまった事への絶望感に向けられていたように感じられる。
最後に作品としての評価だが、前述の通りミステリーとしてのクオリティは非常に高いのでその点は申し分ない。ただ不思議なもので、それが作品としての面白さに繋がるかというと、どうやらそうではないらしい。これは俺の主観的な問題なので当然映画的には「知らんがな」なのだが、破綻のない論理に面白味は見いだせなかった。全てを見ているからその中では神の如く、全ての状況を把握できる俺にとっては、石神すら想定しえなかった変数wも想定内、最後まで論理的な映画だったのである。登山のシーンだけ非論理的(=無駄)だった。
一応HTMLを直接編集してみたけど、レイアウト崩れたかな?HTML編集の前に余計な操作をしたので、なんかpタグがなくなってしまったような気がする。